不幸だっちゃ

なら

なら

そして、自分を徐々に変えたのは大竹であり。

救ってくれたのは、今、目の前にいる人物。

小川美奈を殺害した時に、葵のことを考えることで何とか心を保てた。

葵の存在が、干からびた心を潤してくれた。

彼女を殺すだなんて、考えたくない。考えられない。

……モウ、ダレモコロシタクナイ……

「私が今まであなたにしてきた事は、全て嘘だとわかっているんですか?」

「……残念ながら、そうみたいだな」

「なら、どうして私を殺そうとはしないんですか」

咎めるような口調で問う。

「……俺が、先輩によって救われたのは事実だからさ」

「ですから、それは……!」

「嘘だって言うんだろ。でも俺にとっては嘘でも救われたんだよ」

それに、あれが嘘だとはどうしても思えない。

目の前にいる人物が自分を殺そうとしているのはわかっているんだが。

「そう、先輩が嘘を言っていたのなら、俺はそれを本当だと受け留めたいだけさ」

そう、彼女が言っていたことが幻であっても、自分はそれを真実として受け留めたい。

「……随分こっけい滑稽な望みですね」

「……俺もそう思う……」

だけどこれが今考えられる二番目の望みだ。

「私は嘘つきですが、あなたも嘘つきですね。ここで殺されたいはずがないでしょう」

葵は能面のように表情を消して告げる。赤い夕日に照り返されている彼女の姿は、どことなく機械のように見える。

「こんなとこで死にたくはない……だけど仕方ないだろ……確かに、俺の中に巣食う『心眼』はどう考えても俺を殺す以外に、どうしようもなさそうだ」

自分の望みは。