不幸だっちゃ

葵は加減をしていたのか、動きのキレは衰えていないどころか、徐々にではあるが速度が上がっている。

黒剣をナイフで受け止めるのが間に合わなくなり、槍の突きが体に掠り始め。

そして遂に槍の一閃が緋影の体を捉えた。

「ぐあああああっ!」

一撃は緋影の右脇腹を貫いている。鮮血が床に飛び散る。

槍を引き抜き、即座に葵は、黒剣でナイフを弾いた。

緋影は苦しそうに荒い息を吐き出しながら距離を取ろうとしたが、がくりと膝をつく。ぽた、ぽた、と赤い血が廊下に滴り落ちる。

出血そのものは少ないが、ダメージはかなりある。

緋影は傷を右手で抑えながら、彼女の表情のない顔を苦しそうに見つめている。

眼鏡ごしに、彼女の背後に『色』が見えた。

いつか見た、罪悪感に悩まされる漆黒。

海よりも深い、哀しみの蒼。

「……これで、終わりにします」

黒剣が高々と振りかざされる。

(……体が動かないっ……!)

「この野朗っ!俺のダチ友達に何しやがるっ!」

だが次の瞬間、葵の体は何者かの怒声と共に真横に吹っ飛んでいた。

叫び具合といい、声といい、台詞といい。

「……お、大竹?」

夕日に赤く照らされている人物は紛れもなく、大竹剛だ。

どうしてこんな場所に?結界が張られているのではなかったのか?

『深山君のように意思の強い人にはかからないことがありますが』

葵の言葉を緋影が思い出すと同時に、大竹は床に教科書類が詰まった鞄を乱暴に放り出す。