過去
「ある程度は」
「じゃあ、俺が八歳で親を殺した生粋の殺人鬼だってことは知ってたはずだ。『心眼』が一時的に封印されていても身の危険を感じさせ、強引に目覚めさせられることが可能だということも先輩は知っていたはずだ」
あの、怪物に取り込まれた小川と闘った時のように。
狂った深山緋影を。
赤い殺人鬼を覚醒させることは出来たはずだ。
背を向け、葵は空を見上げる。
「……小川さんのことはどう説明するんですか?」
「……どう、というと」
「あの実験体を殺せる力があったにも関わらず、深山君の力を発現させる為だけに私は奴を見逃していた、とは考えないんですか?」
だが緋影は首を横に振る。
「先輩はそんなことをするような人じゃないよ」
「…………」
「小川の死の直前……あの時の先輩の顔はよく覚えている」
無機質な表情に一瞬見せた本心。
その後ろに見えた、哀しみの蒼。
「自分のことしか考えられない人には、人の死を哀しむことなんて出来ない。だから、先輩はそんなことをするような人じゃない」
緋影は大きく息を吸い込む。
「これでも納得しないというのなら理詰めで説明するよ。俺の推測はこうだ。先輩が俺の力の事を知って学校に入って来た日、つまり先輩が俺に始めて会った日だ。あの時先輩は酒を飲んでグデングデンに酔っていた。俺に信用を与える為に、そういう機会をつくって。でももし学校に来た時から実験体のことを知っていたら、そんなふうにグデングデンに酔っ払う事なんて出来ないはずだ。酔っ払った状態じゃ下手すりゃ先輩の不死の力を奴に奪われかねないし、俺が実験体に殺されでもしたら、先輩は自分の望みを果たす事は出来なくなる」