不幸だっちゃ

現在

現在

「…………」

 「しかも実験体は俺のことについて何も知らなかった。奴と最初に戦った時、実験体はただ俺を殺そうとしていた。『心眼』の能力を取り込もうとしたのは先輩の『不死』の能力と知識が奪われてからだ……小川が取り込まれたのは、実験体の肉体に適応しやすいからであって、殺した奴等の力を全員取り込む訳ではないのは、被害者の体が放置されていることから説明できる。つまり、『心眼』に関する知識のない実験体が『心眼』の能力を得るには、俺を偶発的にでも取り込もうとしない限りありえない。普通に考えるなら俺は実験体に取り込まれない算段の方が高い訳だから先輩の望みは達せられない訳で、先輩は俺を守った方が、あるいは実験体を先に始末した方が願いを達せられる確率が高くなる」

 葵は何も言わない。

「小川が取り込まれたのは先輩と会った日だ。先輩は実験体のことをあの時は知らずにいた。そうでなければ酔っ払った説明がつかない。以上の理由から、先輩は奴を見逃してはいない」

 葵は答えない。

 何も言わずに立ち尽くすのみ。

 「……それでも、深山君を騙していたことには変わりありません」

 この答えを聞くと緋影は葵の正面にゆっくりと回り込んだ。

 その眼が怒りの光を放っている。

 「どうして先輩はそうやって自分を貶めようとしている。どうして先輩は俺を敢えて怒らせようとしている」

 静寂が二人の間に漂う。