不幸だっちゃ

そう言って緋影に背を向ける。

彼女が望んでいたものは自分と同じものだ。

なら……なら……

このまま行かせてはいけない!

緋影は葵の手をぐいっ、と強引に引っ張った。

「み、深山君?!」

何をされたのかよくわからず戸惑っているようだ。

「先輩の嘘にはもう騙されない。夢なんかじゃない。先輩が望めば今すぐにでも手に入る『幸せ』じゃないかっ!」

呼びかけに葵は弱々しく首を横に振る。

「……駄目……です……私にはそんな資格なんてありません。こんな体になって……父と、母を、たくさんの人を殺し、今も深山君を殺そうとした私には……」

「そんなことは関係ないっ!先輩がいなけりゃ俺はどうなってたかわからないっ!」

偽善で、嘘で、疑り深い自分の暗雲を晴らす事など出来ない。

彼女は確かに自分に嘘をついていた。

でも、その優しさは嘘ではない。

それだけは確信できる。

「俺は……俺の都合で先輩に優しくしているだけだ。先輩にその資格があるかどうかだなんてどうでもいいっ!」

いつか葵が自分に言ってくれた言葉。

「だから……だから、死ななければならないだなんて言わないでくれっ!」

緋影はかつてないほど真剣に、切実にそう願った。

「…………」

葵は無言で緋影の胸に顔を埋めた。

しばらくそうやって緋影の胸に顔を埋めていた葵は、一言。

「…………ごめんなさい…………!」

小さく、一度だけ、血を吐き出すような懺悔をした。

「俺がいいんだから、気にしないでくれ」

謝られると逆に申し訳ない気分になってしまう。

しかし、彼女の返答は予想出来る。

だから緋影は矢継ぎ早に捲し立てた。

「……でも、先輩がどうしてもこの生活を……俺の勝手な優しさを受け入れてくれないのなら……仕方がない……俺はどんな方法を使ってでも、地の果てまで追いかけてでも先輩を追いかけて幸せにしてやる。どこに逃げても必ず捕まえてみせる」