答え
葵がじゃり、じゃり、と砂を踏み締めるように歩み寄って来る。
緋影は正門の前で葵を待ち構えていた。
数メートルの距離を取って、彼女は歩みを止めた。
「……一つ、聞いていいですか?」
緋影はゆっくりと頷く。
「……どうして、眼鏡をかけたんですか?」
「…………」
緋影は答えない。投げ捨てたのは眼鏡ではなく、ナイフだった。
あれが手元にあると、いつまた彼女を殺そうとするかわからない。
もう二度と、自分が好きな人の人生を奪いたくはない。
母親を殺害したことを思い出した時、小川美奈をこの世から消してしまった時、そう誓ったはずだった。
にも関わらず、自分は葵に殺意を抱いた。
そんな自分が許せなかった。初めて自分で自分を殺してやりたい、とまで思った。
「……どうして、私と闘おうとしなかったんですか?」
どうやら先程の攻防も戦意のあるものとは葵には思えなかったようだ。確かに、緋影は隙だらけの左胸の『歪み』を突かなかったし、極力戦いを避けようとしていた。
問い掛けに緋影は重い口を開ける。
「……先輩を殺す……なんてことは、考えたくなかったから……」